ドイツのロマン主義文学はゲーテの作品や疾風怒濤期の作品から理論の形成に大きな影響を受けたが、ゲーテ自身はロマン主義に批判的であった。ドイツ文学におけるロマン主義運動は北部のイエナを中心とした。イエナにはザクセン＝ヴァイマル＝アイゼナハ大公国の宰相でもあるゲーテの政策によって、国内を代表する学者たちが教授として招かれていた。ドイツの初期ロマン派（ドイツ・ロマン派、イエナ・ロマン派）の文学者には文学誌「アテネーウム」を主宰したシュレーゲル兄弟、ティーク、ノヴァーリスなどがいる。イエナのサークルにはゲーテ、シラー、シュライエルマッハー、フィヒテ、シェリングが関わった。またこのサークルには加わらなかったが、ヘルダーリンもイエナでフィヒテの講義を聴講している。この初期ロマン派は哲学への志向を持った。この傾向はシュレーゲルに強く近代の特徴的所産としてフランス革命・フィヒテの知識学・ゲーテの『ヴィルヘルム・マイスター』を挙げている。しかしこの文学者からの接近は哲学者からは必ずしも歓迎されなかった。シュレーゲルはイエナ大学で哲学の講義を行ったが、哲学界からは黙殺された。またヘーゲルやシェリングはシュレーゲルの思想を浅薄なものと非難している。しかしフィヒテの後期知識学や、シェリングの後期哲学（積極哲学）には明確にロマン主義の影響が認められる。これらのドイツ観念論とは異なる哲学的思索については、のちにヴァルター・ベンヤミンが芸術批評の思想として発掘し、カール・ハインツ・ボーラーなどにより積極的に評価された。哲学史的意味においてこの時期の古代ギリシア研究にアポロンと対置されたディオニュソス的な存在を見出した影響は大きく、ニーチェらがこの分類を用いたほか、世紀末芸術などにモチーフが受け継がれた。彼らのグループ・イェナロマンティカーは各人の転居や死などにより1800年には解消した。のちにベルリンのアルニムらによるサロンを中心とする小説家群が輩出された。この文学者群を後期ロマン主義と呼び、グリム兄弟、シャミッソー、ホフマンらが挙げられる。シュレーゲルの友人であるスタール夫人によりドイツのロマン主義はその源流であるフランスに紹介された。
『ドイツ・ロマン派全集』はイツ・ロマン派の文学から論考、絵画、詩に至るまで代表作を網羅した労作。
〈目次〉
第1巻：ティーク
金髪のエックベルト / 友だち / ルーネンベルク / 愛の魔法 / 今泉文子訳||アイ 妖精 / 怪しのさかずき / 美しいマゲローネ / ハイモンの子らの物語 / 忠臣エッカルトとタンネンホイザー /
第2巻：ノヴァーリス
青い花 / 青い花」への遺稿 / ザイスの弟子たち / 雑録集 /
第3巻：ホフマン
ブランビラ姫 : カロー風の狂想曲 (カプリッチオ) / 王様の花嫁 : 自然に取材したメルヘン / クルミ割り人形とネズミの王様 / 騎士グルック : 一八〇九年のある思い出
第4巻：ブレンターノ/アルニム
ライン河と粉ひきラートラウフの物語 / ブレンターノ著
ミルテの精 / ブレンターノ著
ちいさなちいさな物語 / ベッティーナ・フォン・アルニム著
雀の遺した書誌から / ギーゼラ・フォン・アルニム著
少年の魔法の角笛抄 / ブレンターノ, アルニム著 ハンガリー綺譚 / ブレンターノ著
カスペルとアンネル / ブレンターノ著
ガンツゴット公と歌手ハルプゴット / アルニム著
サヴェルン夫人 / アルニム著
世襲相続人たち / アルニム著
第5巻：フケー/シャミッソー
ウンディーネ / フケー著
地獄の小鬼の物語 / フケー著
ロサウラとその一族 / フケー著
ペーター・シュレミールのふしぎな物語 / シャミッソー著
第6巻：アイヒェンドルフ
秋の妖惑 (まどわし) / 大理石像 / 航海 / デュランデ城 / 誘拐 /
第7巻：ハウフ/メーリケ
ぶどう酒綺譚 : ぶどう酒党への秋の贈り物 / ハウフ著
冷たい心臓 : メールヘン / ハウフ著
こびとの鼻吉 / ハウフ著
シュトゥットガルトのしわくちゃこびと / メーリケ著 イェツェルテの手 / メーリケ著
第8巻：月下の幻視者 （ドイツ・ロマン派短編集）
メールヘン / ゲーテ著
小品集 / ジャン・パウル著 ;
裸の聖者ー不思議な東洋風メルヒェン,音楽家ヨーゼフ・ベルクリンガーの生涯 / ヴァッケンローダー著
漁師とその妻 / ルンゲ著
聖ツェチーリエ、または音楽の力ー聖徒物語
別れの宴 / コンテッサ著
ある座右銘の予言 / チョッケ著
スヴァンヴィーテ姫 / アルント著
長い鼻の童話 / ボナヴェントゥーラ著 ; 佐藤恵三訳||ナガイ ハナ ノ ドウワ
オルラッハの娘 / ケルナー著
ティムール / ギュンデローデ著
リンゴの熟す頃・雨乞い / シュトルム著
仔ネコのシュピーゲル / ケラー著
ルビーー童話 / ヘッペル著
第9巻：無限への憧憬 : ドイツ・ロマン派の思想と芸術
ヘルダー 中世英独詩芸術の類似性、並びにそこから生じる諸問題について ヘムステルホイス アレクシス、あるいは黄金時代について
フィヒテ 知識学への第一序説
シェリング ドイツ観念論最古の体系計画・世界霊について 第一版序文
第10巻：ドイツ・ロマン派論考
ロマン的医師たち / フーフ著
ドイツ・ロマン主義の主要特徴 / ブランケナーゲル著
ヨーロッパ的運動としてのロマン主義 / シュトリヒ著
ドイツ文学の転回点としてのロマン主義 / ルカーチ著
ロマン主義の起源とその位置づけ / トレーガー著
反動的ロマン主義と進歩的ロマン主義 / マルクーゼ著
ロマン派におけるニヒリズム / コールシュミット著
啓蒙主義に対するロマン主義の関係 / ラッシュ著
ノヴァーリスの文芸的メッセージとしての「ヨーロッパ」 : 序 / マルシュ著
ロマンとメールヒェン / シュラッファー著
アイヒェンドルフの風景 / アレヴィーン著
シャミッソー / トーマス・マン著
小品集 / ヴァルザー著
アイヒェンドルフ頌 / アドルノ著
ヴァッケンローダー・メールヒェン / タールマン著
「われらの自我の幻想」と文学心理学 /キトラー著
など
