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講談社 昭和58年発行
定価 12,690円(セット価格203,040円)
約30×22×3cm
カラー・モノクロ
※絶版
【日本の武道 全集全体の序文より】
『日本の武道』刊行にあたって 編者代表 今村嘉雄
「日本のこころ」と武道
現代の武道は、いわゆる古流武道を伝承発展させたものである。古流武道は、われわれの遠い先祖が狩猟を生産活動としていた時代に源を発し、狩猟法からしだいに武技、護身術として発達し、室町時代の後期ごろに流派として素朴な体系をもつようになった。これらの古流武道は、原始的な神霊思想(シャーマニズム)とも関連し、さまざまな祭典や儀式の行事として、また貴族や武家の練武と遊びを兼ねた狩猟活動として、さらには「通し矢」などのような近代的ともいえる記録競技や、江戸時代の藩校に見られるような教科活動として、活発に行われてきた。とくに競技的、教科活動的な側面が現代武道として継承、発展しつつあるとも言えるであろう。
一方、古流武道は神道・仏教(顕・密両教、とくに禅)・儒教・老荘思想、さらには国学思想などとも深いかかわりをもつことによって、日本人としての道徳観や美意識の確立に大きく寄与してきた。これらの思想は、その技法とともに現代武道に伝承され、さらに高度の西欧的な教養を加えて、日本国民の精神構造の基盤をなしている。
戦後、武道は急速に国際化し、昭和三十九年(一九六四)の東京オリンピックには正式種目として「柔道」が加えられた。欧米の産業人や青年層には、今や武道を通して日本人の心を知ろうとしている人たちが急速に増加しているという。戦後数十年で目ざましい経済成長を遂げた原動力を武道の心に求めようとしているのである。もし「武道の心」が新渡戸稲造の言う「日本のこころ」(soul of Japan)に含まれるならば、欧米人の発想は必ずしも短絡に過ぎるとは言えないかも知れない。
しかし日本はいま政治、経済、外交、教育等いずれの面においても、決して楽観が許される状態ではない。とくに教育の荒廃は、それが先進諸国に共通の悩みとはいえ、この複雑な症候群への対策こそは最も急を要する深刻な課題である。
この『日本の武道』は、武道が日本人固有の最もすばらしい文化財の一領域であるという認識に立ち、二十一世紀の日本を展望しながら、新しい時代に即した武道による社会秩序の教育的再建を、健全な良識をもつ人々に広く呼びかけようとするものである。
本叢書では、まず武道の成立過程やその思想的背景を大観しながら、武道の古典の中にそのまま現代武道の学習に通ずる技法・心法の妙があることを示すとともに、それらが現代武道にどのように生き生きと、しかも力動的・合理的に実現されているかなどを、現代武道十種目を中心に実証しようと試みた。すなわち数十ページに及ぶ口絵に事理一元(技と理論との一致)の武道精神を象徴化し、本文では豊富な連続写真、図解などによって技法の分析的かつ総合的な解明を試みた。
その場合、当然ながら武道とスポーツの関係が解明されなければならない。武道と武士道との関係、武芸または武術と武道との関係も同様である。武道が競技的な側面を持つことは当然のことながら、西欧スポーツは本質的に「遊び(プレイ)」を前提とし、武道は本質的に「人間形成(修身)の行い」であることを前提とする。それは嘉納治五郎が「競技」という用語を避けて「大日本体育協会」とし、「スポーツ振興法」(昭和三十六年制定)が、競技的・非競技的な運動を含めて、スポーツは「心身の健全な発達を図るためにされるもの」と規定したのと同軌である。いずれもスポーツ解釈の武道的・日本的杷握とみてよい。
なお本叢書では、武道と特に関連の深い、美術、伝統芸能(茶・書・能・花)をはじめ、禅、儒、養生訓までを採りあげた。冒頭にも述べたように、武道をわが国囚有の根源的な文化財として総合的に把握することを編集基本方針の一つとしたためである。
また、先にも触れたように各武道の巻頭には独特の導入ページ(口絵)を設け、それぞれの武道の精神を視覚的に把握できるように工夫した。さらに本文のまえに、武道を志向する読者の精神的な支えとなるような特別読物を、広く各界の権威の方々から寄稿していただいたりして収める等の配慮を加えた。
この『日本の武道』は、直接には学校や職場や町なかにあって、みずから武道にはげみ、またその指導に当っておられる方、、武道を職務の一端とされている驚察官、自衛官、および有段者を含む一般の武道愛好者の方、を対象として編述したものであるが、それらの方々の子弟である学生・生徒の諸君にもぜひ愛読されるよう心から熱望してやまない。
【目次】
●巻頭カラーモノクロ写真解説
道は大路の若く然り
技より進めり
順理体現
無心無為
不動心
気帥
精力善用
自他共栄
浩然の気
力れば必ず達す
温古
革新
自然
合理
工夫
一閃
虚実
乱取り
形
克己
名人芸
心之抄
柔道之基礎
技術之部
歴史之部
●日本の武道 柔道 目次
道は大路の若く然り
技より進めり
力れば必ず達す
心之抄
精力善用、自他共栄 嘉納治五郎 初代講道館館長
一人前の人間の資格 嘉納治五郎
非凡は凡にひそむ 三船久蔵 講道館十段
柔道の哲理 三船久蔵
舞台の上の残心 尾上梅幸 七世 昭和・歌舞伎女形の第一人者 人間国宝
柔道之基礎 連続写真図解
第一章 柔道を学ぶ心構え
第二章 道場・柔道衣の礼儀作法
第三章 練習の方法と心得
第四章 柔道の基本動作
第五章 試合にのぞむ態度
技術之部
第一章 相手を倒す投げ技
第二章 固め技
第三章 連絡変化
第四章 講道館柔道における形
第五章 救急処置としての活法
歴史之部
第一章 嘉納治五郎と講道館柔道
第二章 わたしの修行時代 小谷澄之
第三章 近代名人伝
山下義韶 大統領の指南役
広瀬武夫 ロシアの英雄
永岡秀一 史上に残る名乱取り
磯貝一 西の柔道界の雄
三船久蔵 紫綬褒章の柔道人
杉村陽太郎 世界に羽ばたく柔道大使
●日本の武道柔道執筆・協力者一覧(敬称略・五十音順)
執筆
老松信一 前全日本柔道連盟事務局長・八段
尾上梅幸 歌舞伎役者
嘉納治五郎 講道館創始者
小谷澄之 講道館九段
醍醐敏郎 警察大学校教授・八段
三船久蔵 講道館十段
演武
大澤慶己 早稲田大学教授八段
小野沢弘史 早稲田大学助教授・六段
掛村敏崇 順天堂大学・三段
佐藤毅 警察大学校助教授・七段
醍醐敏郎 警察大学校教授・八段
野宮剛 東洋大学
真柄浩 順天堂大学講師・六段
増田光俊 東洋大学
山本四郎 警視庁柔道師範・七段
ほか
●編集委員
代表 今村嘉雄 束京教育大学名誉教授・文学博士
老松信一 前全日本柔道連回事務局長
江里口栄一 日本武道館理事
伊保清次 中京大学教授
植芝吉祥丸 合気会理事長
藤原稜三 国際武道アカデミー理事
醍醐敏郎 警察大学校教授
鈴木義孝 日本少林寺拳法連盟理事
入江康平 筑波大学助教授
桑田忠親 国学院大学名誉教授・文学博士
鎌田茂雄 東京大学教授・文学博士
表章 法政大学教授
【状態】
金箔押し布張り上製本の外観は経年並、背ヤケあり。
本文目立った書込み・線引無し、 カラー写真図版良好、
問題なくお読みいただけると思います。(見落としはご容赦ください)
<絶版>オークションでも数少ない、今となっては入手困難・貴重な資料本です。
古本・ユーズド品にご理解のある方、この機会にぜひ宜しくお願いいたします。